杉のA4サイズ小抽斗

4段タイプ、蜜蝋ワックスで仕上げている。 H:363.5 mm W:256 mm D:340 mm

杉の木で小抽斗を作ったら、木目が面白いだろうなぁと以前から思っていた。購入した板材は、白太(しらた)と言って、杉の外皮に近い白い部分が多く含まれ、芯(中心)に近い赤身(文字通り、赤い色の部分)が柾目(ボーダー木目)板で芯持ちの板という具合だった。

特上の材料ではない、建築の造作において、少し見栄えを良くしたい個所などに用いるものだと思う。丸太の一番オイシイ赤身と白太のバランスの取れた部分は、厚板として製材されたか、角材を取ったのだろう。その製材の残りの部分で、5分や4部の薄板を製材している模様。

その薄板を買ってきて、早速小抽斗6台の制作に取り掛かった。天然乾燥故に、まだちょっと乾燥が不十分のようだった。本来なら材料を購入して、工房内で3か月ほど乾燥(というか放置)してさらに乾燥させるのだが、今回はすぐに使用した。よって、加工途中で縦反りや収縮が起こったが、大した問題ではななかった。しかし、やはり安定した材料を使うべきだと反省した。

杉の表情はとても豊かで、個性も幅広く、そこが面白い。一番上の小抽斗の側面板のような、優美な木目もあれば、真上の画像の小抽斗の側板は、荒々しい木目でとても硬く、『松じゃないの?』と思ったが、匂いはまぎれもなく杉だった。

そんな杉の表情をそのままクリア塗装で仕上げた小抽斗も美しいのだが、どうも自分の考える『生活の中でのリアリティ』に欠けるような気がして、着色仕上げを多く作った。真上の画像の、引き出し前板部分だけ黒塗りしたようなものは、ちょっと狙いすぎた感があって(要するにミーハー)、まぁそれでも気に入っているのだが、やはり真下の画像のようなレトロ感の着色は渋くて好きである。

桧に着色した家具も、ここ2か月ほど連続して作ったが、圧倒的に杉の木にこの色の着色の方がピッタリくる。ちょっとハマりすぎて、狙って古っぽい家具を作ろうとしている感が出ているようでそれは嫌なのだが、(確かに古い日本の箱もの家具は好きだが、自分の中ではそれをイメージして、あくまで現代における新しい形として作ってます、)杉の新たな可能性を確信したようで、収穫はあった。

古い箱もの家具に、金物のタグ挿しとか、タグ挿し兼ツマミとか取り付けることだけは避けた。安っぽくなるからである。上にも書いたが、古っぽいものを狙って作っているのではなく、あくまで昔のそれらの家具への憧れを基に、堂谷木工において制作しているので、金物をもし付けるのであれば、金物を自作するか、そうでなかったとしても、ミーハーな性格故に、『タグ挿しは導入したいなぁ、可愛いし。』と考えていて、結局、彫り込んで再現するという面倒くさいことをやってみた。結果、ある程度上手くは出来たが、結構な手間になっている。

引き出し内部も全て杉である。流石に構造部分に白太を用いるのは避けて、引き出し部材に白太を回した。底板も本来ならば、伸縮の少ない柾目板が適しているが、白太の板目板しか手元には無い。幅も240ほどなので、板目板であっても溝の伸縮クリアランス内で収まる。それに何よりも、購入した杉板がとても硬く、白太でも冬目(年輪で言う濃く見える線)がしっかりしており、引き出しに用いても大丈夫だろうと考えた。それに何より、杉の白太も美しいのである。少し褐色がかった白色で、桧とは違う優美さがある。杉の魅力は、やはり赤身と白太のコントラストであると確信した。それを上手く使うのは結構悩む。

台輪を履かせて、上品にしたつもりである。当方は、抽斗に何かと脚やら台を付けて地面から浮かせるのが好きなので、今回は台輪を別で作って完成後に取り付ける形にした。

6杯引き出しと4杯引き出しの2タイプを作ったが、4杯の方がバランスは良いように思う。6杯引き出しが付くと、若干ゴチャついている感じになる。

そして、今回は弁柄にごくわずか松煙を混ぜたもので着色したバージョンを作った。賛否両論あると思うが、当方は満足な結果を得た。朱漆の良さにはさすがに負けるとしても、汎用抽斗において、弁柄の赤い存在は、空間を楽しくしてくれるものであると感じる。高級感は出なくてよい、素朴や、コンセプトや制作方法が稚拙であっても凛とした表情が出したいし、出せると思っている。

ツマミにも市販品を取り付けるのを拒んだ。6台分のツマミだけで制作に丸一日かけている。旋盤で丸めた方が早いのだが、当方の旋盤は三つ目スクロールチャックしか無く、角材を3本の爪でチャックすると、偏心になってしまう。もっと良い制作方法があると思うが、ホゾ部分とツマミ先端部分を3度ほどチャックし直して、段階を追って部分的に加工していくので、3本の爪でどの面をチャックしても先に取った丸ホゾが芯になるようにするには、チャック面を6面にしてからチャックさせた。それだったら、どうせ六角形にしているのだったら、ツマミも六角形にしようと思い、このように六角形のツマミになった。さすがにツマミの制作に用いたのは、ヤマザクラである。全体が甘めのフォルムと着色なので、ツマミの六角のエッジが少しだけ表情を引き締めてくれていると思う。

抽斗制作はしんどい。時間にして6台の制作に147時間かかった。もちろん、準備や治具の制作時間は含まれていない。純粋に制作に費やしたのがこの時間である。精神的にも苦しいのだが、完成後の喜びは大きい。それと、完成後の存在感がすごく好きで、抽斗作りは止められない。いや、もっと楽に作りたいけど、もっと苦労して技術に向き合っている職人はたくさん居る。指物をする職人から見れば、当方の引き出しは邪道であろうと思う。だから、自分の仕事は楽をしてる方だろう。ならばせめて、楽をして簡単に作ることだけはやらないようにするという、現代社会においてあまり意味のない『意地』を持っている。

今回もいろいろ勉強ができた。

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